≪米糠の持つ栄養・発酵パワーを簡単に日常にとりいれよう≫

最近よくみみにする『マイぬか床』というフレーズ、家の冷蔵庫にある野菜で手軽にぬか漬けをつくる人が増えているようです。

十代のころ、私はとある老人施設で週に2、3度アルバイトをしていました。
その時の仕事の一つに、『ぬか床をかき混ぜる』というものがありました。
その施設にはフロア全体で共有するぬか床があり、その時々で違った野菜がいつも漬けられていたのですが、毎日担当のだれかがかき混ぜることになっていました。
なぜ?ぬか床があったのかともうしますと、そこは入居型の施設、食事の時間の箸休めとして、ぬか漬けをだしていました。

入居されていたほぼ皆さんにとって終の棲家となるであろうその場所で、私もアルバイトのみでしたが担当するユニットがありました。
ユニットは、各フロアごとにいくつかあり、だいたい6~7名の方々で構成されていました。
ユニットといっても、日中など基本は皆さんそれぞれ自由に過ごされていて、食事の時間になると、施設で働く介護士や、私のようなアルバイト達もそれぞれ担当の食卓に着き一緒に食事をとる。という、いわば”ごはんを一緒に食べる仲間”といったところでしょうか。
食事の時間になるとユニットの担当者がせっせとぬか床からきゅうりやなすびを取り出してザクザク切ったものを自分のテーブルまで持って行くのですが、当時の私は
「こんな塩分の高そうなもの身体に毒じゃないのか」などと心の中で思いながら、でも美味しいし、これやったら皆ご飯すすんで食べてくれはるし、それはそれでいいんかな。などと思っていました。
当然のこと、『ぬか』の持つ秘めた力などその時のわたしは無知だった私。

私は共働きの両親のもとで育ち、母親もとても忙しい人で自宅にはもちろん『ぬか床』なんてなかったので、ぬか床をかき回したり適度な温度に保つことや、美味しい食べごろのタイミング等…『ぬか』にまつわる全ての事が初の体験でした。
ただ、施設の食事の時間にいただくぬか漬けのおいしいこと!
プロではないのでその時々で味も違うのですが、そんなところもぬか漬けの好きなところで、
「今日のんちょっとしょっぱいですね~。」「でもごはんと一緒やったらちょうど良い塩梅やわ~。」などと話しながら食事するのも楽しみでした。

さて、『ぬか』と一言でいっても種類はさまざまですが、いわゆる一般的なぬか漬けに使用されているのは玄米を精白する際にでる「米糠」です。
塩を混ぜた米糠をゆっくり自然発酵させてぬか床をつくります。そうすることでぬか漬けに適したぬか床をつくるのですが、同時に糠のもつ栄養価も発酵
とともに高まります。
発酵したぬか床にはアンチエイジングには不可欠な分子である酵素が多く含まれていますので、老化のもとになる活性酸素を防いで免疫力や新陳代謝を高めてくれるといった効果があります。

米糠の持つ栄養素で特記すべきはビタミンB群が豊富に含まれている点です。
中でも熱に弱く調理すると成分を消失してしまうビタミンB₁も、熱を加えないぬか漬けならその成分を余すことなくとることができますし、何よりぬか漬けの野菜は、水分が抜けてビタミンと食物繊維が凝縮され、さらに豊富なビタミンB群とミネラルをふくんだ糠が野菜に浸透する事で、生の野菜より栄養素が7倍~10倍!にまで高まるのです。

さらに人間の脳の働きには大量の糖を要するのですが、この糖の代謝に必要不可欠なのがビタミンB₁です。不足してしまうと、脳が神経にまつわるコントロールをうまくできなくなり神経痛の原因になりますし体のさまざまな不調につながって行きます。

もちろん発酵食品ならではの乳酸菌、しかも胃酸にも負けない植物性乳酸菌も豊富にふくんでいますので、腸まで届きおなかの中の悪玉菌を排出してくれます。
そして何といっても、この乳酸菌がぬか漬けの味、自然でやわらかな酸味とうま味の決め手になります。
日頃より美味しくなにげなく食べているだけでもいいのでしょうが、本当に知ればしるほど魅了されずにはいられない『ぬか』の力。
何も知らなかったあの頃の自分に教えてあげたい。きっともっと慈しむことができたでしょうし、ただ塩分の事だけに気をとられることもなかったでしょう。

ただ、健康に対する意識や食の安全への関心がどんどん高まる中、「超」が付くほどの高齢化社会の現代において、私が一番たいせつにしたい事は、やっぱり難しいことはぬきにして、家族や友人、大切な人と囲む食卓です。
その食卓には、まちがいなく何にも勝るパワーがあるとおもうからです。

清水